【小説】 モンティ・ホール問題と水奈とEXCEL (第6話)
前回の話はこちら: 第5話
(最初から読む場合はこちら: 第1話)
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「な、なんでそれを手に持ってるんだ? い、いつの間に?」 僕は飛び跳ねそうになりながらも、できる限り落ち着いた声で水奈に話しかける。
「うん?これ?」 水奈が目を細めながら応える。「ほら、右手にあるでしょ?」
「う、うん」
「でね・・」
「んふあっ!!」 また何か冷たいものが首すじに当たる。「うふああっ!」
「左手にもあるの。ほら」 水奈が更に目を細めて小悪魔のように微笑む。
彼女の右手には先ほどの不気味な器具が握られている。そして左手にも同じような形の器具が。 形は似ているが、全く同じというわけではないらしい。
何に使うのか全く想像できない(医療用の?)不気味な器具が・・
ふたつ・・
「と、とにかく」 落ち着こう。うん、とにかく落ち着こうではないか。「か、加奈は、そ、それで、何をしたいのかな?」
「うふふ。まあね。えーっと・・ ん?んん? カナ?今そう言ったよね?ん?カナ?水奈じゃなくてカナ?誰ですか、それ?」
「い、いや、水奈と加奈がごっちゃに・・ い、いや、逆に・・」
「え?」
「てか・・ そう、逆に」
「え?」
「だ、だから、『ミナはそれで何をしたいのカナ?』 って言うつもりが・・ 『カナはそれで何をしたいのミナ?』 って・・」
「え?」
「だから、そう、ミナはそれで何をしたいのカナ?っていうのが、カナはそれで何をしたいのミナ?って・・ そ、そうだよ!ミナとカナが逆になったんだ」
「え?」
「だ、だから、カナはそれで何をしたいのミナ?って・・ ぎゃ、逆に・・」
「え?」
「だ、だから・・ カナはそれで何をしたいミナ?って・・」
「え?」
「い、いや・・ だ、だから・・」
「え?」
「ミナがカナに・・」
「言ってないよね?」
「・・?」
「そんなこと言ってないよね?」
「い、いや・・」
「カナはそれで何をしたいミナ?じゃなくて、『カナは何をしたいのカナ?』って言ったよね?」
「い、いや・・」
「言ったよね?」
「い、いや・・」
「まあいいか」
「あれ?」
「うふふ。だって、どうせ、これで白状するんだもん」 水奈は右手に持っている不気味な器具を見つめながら微笑む。「えへへへ」
「い、いや・・」
「ではでは・・」 水奈が何事もなかったかのように促す。「エクセルの続きをしましょ」
「そ、そうだな」 僕は動揺を隠しながらも、なんとか冷静に応える。
「次は何をするの?」水奈が尋ねる。「アタリのドアが決まったわけだから・・ 次は挑戦者が選ぶドアを決めるの?」
「うん、そうだね。さっきランダムで求めたアタリのドア番号 Door Random の右側に Choice Random という列を作ろう。 で、さっきと同じく1から3 までの数値がランダムで選ばれるようにすればいい。こんな感じで。式は一緒だ」
「ふむふむ」
「それを下まで、ぐいっと下へ」 僕は数式を入力したセルの右下をつかんで、そのまま下にドラッグする。
「ねえねえ、これって10回分しか結果が出ていないじゃん」 水奈が不思議そうに尋ねる。「No.1 から No.10 までって・・ サンプル数が10個って少なすぎない?確率の統計を取りたいんだよ?」
「うん、分かってる。でも今のところは計算式とか全体的な構成を考えている段階だから、とりあえずこんな感じっていうのができればいいんだ。計算式と書式さえ完成しちゃえば、あとでサンプル数を増やすのは簡単だよ」
「そっか」
「アタリのドアを選ぶ時は各ドア番号の下に Here って文字が出るようにしたけど、今回、挑戦者が選ぶドアはそのドア番号の下に色が付くと分かりやすいかもね」
「どういうこと?」
「たとえば、挑戦が選んだドア、つまり Choice Random の数値が1だったら、Door A の下のセルが黄色くなるとか。ここね」
「そうすれば」 僕は言葉を続ける。「黄色く塗られたセルと Here って文字が一致した場合、挑戦者の選んだドアはアタリのドアだったっていうことになる」
「ああ、なるほどね。確かにわかりやすいかも」 水奈の目がきらきらと輝く。
「特定の数値を取った時にセルの色を変えるには、『条件付き書式』 で 『セルの強調表示ルール』 から・・」
「色々あるね。どれだっけ。とりあえず『その他のルール』 かな」
「うん」
「えっーと・・ ルールの種類は『数式を使用して、書式設定するセルを決定』で良さそうだ」
「数式は、Choice Random の数値を見たいから・・ 『G4 = 1』 だけど、この色付きの書式を右側にある Door B と Door C のセルにも適用したいわけで・・ ってことは、G列は固定しておいた方があとあと楽かな・・」
「どういうこと?」
「数式が設定されたセルをドラッグして別のセルに丸ごとコピーする時、そのままだとコピー先への移動距離分だけセル番号も変わってしまうんだ。例えばセル A1 に数式『= B2 + D4』が記載されていたとして、それをそのままひとつ右側の列のセル B1 に持っていくと、式も『= C2 + E4』に変わってしまう。B と D という文字がそれぞれ C と E にずれてしまうんだ。でもこの列を表す英字に $ マークを付けておけば、コピー元のセル番号を変えずにコピーすることができる。ちなみに行を表す数字に $ マークを付けることもできるよ。もしくはその両方にも」
「んん・・」
「とにかくやってみるね。数式中の G4 に $ マークを付けて 『= $G4 = 1』。で、その数式とセル値が一致した時に黄色く塗られるようにすればいい」
「んん?」
「ほら」
「おお!よく分からないけど黄色くなった!」 水奈の目が更に輝きを増す。
「この書式設定を右側ふたつにもコピーするわけ」
「うん」
「ほら、Door B のところも Door C のところも両方とも 『= $G4 = 1』になってるでしょ。G という文字が E とか F に変わっていない」
「うん」
「で、Door B のところを『= $G4 = 2』 で、Door C のところは、『= $G4 = 3』 にしておく」
「う、うん・・」
「この三つのセルを下にぐいっと引っ張っていけば」
「おおお!」 水奈が嬉しそうに上ずった声を上げる。「Here という文字と黄色のセルが重なっているところは、挑戦者と司会者モンティそれぞれの選んだドアが一致しているってことだよね」
「うん」
「つまり挑戦者はアタリのドアを選んでいる・・」
「そうだよ」 僕はちょっぴり得意げに応える。
「面白いね」
「まあね」 僕は更に得意げに応える。
「てかさ・・」
「んふぁあっ!!」 突然また冷いものが首すじに当たる。「ひやっはー!!」 更にもう一度。
「なんか生意気」 水奈の声が半音上がる。いや下がったのか。何度も言うが、これは水奈がドSモードに・・ (割愛)
「本当に面白いのは、まだまだこれからなんだよ」 目を細めながら水奈が不敵な笑みを浮かべる。「うふふふ。色々と白状させなきゃ・・」
(第7話に続く)
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