【脚本】 東京ジェイル (その1)


< 人物一覧 > (2016.03.24 現在)


 すぐる … 大学講師

 アイリ … 技術者

 フトシ … 国家公務員

 れもん … ダンサー



〇1.薄暗い部屋


   机を囲んで座る男女4名。


すぐる 「なんでこんなことになった?」


アイリ 「知らないわよ」


フトシ 「いったいどうすればいいんだよ……」


アイリ 「もう、さっきからうるさいわね。自分で考えなさいよ」


れもん 「どうせみんな、わたしのことを疑っているんでしょ? 分かってるんだから」


アイリ 「え? 何言ってるの?」


れもん 「だって…… だって、みんなの目を見れば分かるじゃない!」


アイリ 「はあ? なんなの、あなた。 バカなの?」


すぐる 「まあ、まあ。そう言うなって。疑心暗鬼になるのは仕方がないよ」


フトシ 「こんなの嫌だよ。なんだよこれ。これはきっと夢だよな。もう少ししたら目が覚めて言うんだよな。あー、夢で良かった、ってよ」


アイリ 「はあ? あなたもバカ? 夢と現実の区別もつかないわけ?」


すぐる 「まあ、落ち着けって」


フトシ 「夢だ…… これは夢なんだ…… くっそ!」


すぐる 「(少し苛立ち気味に) いいから、落ち着けよ。落ち着けって!」


   一同、静かになる。


すぐる 「ちょっと整理して考えてみよう。多分みんな同じような疑問を持っているんじゃないかな。まず、ここはどこだ?」


一同 「……」


すぐる 「なんでもいいから、分かっていることがあったら教えて欲しい。気付いたことでもいい」


一同 「……」


すぐる 「オーケー。では、ここにはどうやって来た?」


アイリ 「知らないわよ。気付いたらここにいたの」


すぐる 「じゃあ、ここに来る前は何をしていた?」


アイリ 「取引先の人たちと飲んでいたわ。会社の近くの居酒屋で。ちょっと飲み過ぎたみたいで眠たくなってきて…… で、気付いたら、ここにいた。―― っていうかさ、まだお互い自己紹介すらしてないじゃない」


すぐる 「ああ、そうだね。じゃあ、自分の名前と、ここに来る前に何をしていたか、それを言っていこう。何かしらの共通点が見つかるかもしれない」


アイリ 「いいわ。わたしは、アイリ。医療用機器を作っている会社で働いていて、一応、エンジニアよ。ここで目が覚める前は、取引先…… 製薬会社なんだけど、そこで働いている薬剤師ふたりと一緒に飲んでいたわ」


フトシ 「へっ、エンジニアだと? まあいいや。俺の名前はフトシ。強そうな名前だろ。職業は言えない。寝てただけだ」


アイリ 「なに? 偉そうに。 職業を言えないって? 言いなさいよ。 ただでさえ誰だか分からないんだから、隠しごとはなしよ」


フトシ 「ちっ。ならば、とある政府機関に勤めている…… とだけ言っておくぜ。それ以上は言えねーな」


アイリ 「なにそれ? さっきまで、これは夢だ! 夢なんだっっー! って、ブルブルブルブル怯えていたくせに。とある政府機関? 聞いて呆れるわ」


フトシ 「なんだよ? 文句あんのか?」


れもん 「(唐突に) や、やっぱり。私が疑われているのね!」


フトシ 「へ?」


れもん 「だって、だってそうじゃない。さっきから、名前とか職業とかを根掘り葉掘り聞いたり、そ、それに、政府機関だなんて!?」


すぐる 「大丈夫だって。僕たちはお互いに会うのは初めてだし、それに、みんな…… ほら、悪い人には見えないだろ?」


れもん 「本当に悪い人は悪い人には見えないものなのよ! どうせみんなグルなんでしょ! わたしは騙されないわよ!」


すぐる 「落ち着いて。せめて名前くらいは教えて欲しいんだ。でないと呼び方がわからないじゃないか。だからさ…… なんて呼べばいい?」


れもん 「……」


すぐる 「ねえ?」


れもん 「……」


アイリ 「まったくもう。 れもん、でしょ!?」


れもん 「(驚いて) な、なんで知っているの!! ―― い、いやーー!!」


アイリ 「あなたバカなの? わたしに向かって自分で言ったじゃない。目が覚めた時に。わたし、れもんって言います、って」


れもん 「……言ってないわ。言うわけがない」


アイリ 「言ったわよ。あと、仕事はダンサーだって」


れもん 「仕事まで調べ上げて……」


アイリ 「ったく、呆れるわ。自分で全部言ったのよ。ダンサーの、れもんさん」


れもん 「じ、自白剤を!? ―― い、いやあああーー!!」


アイリ 「ったく、ついていけないわ。―― ああ、それから、なんかさ私、あなたのことどっかで見たことがあるような気がするのよね」


れもん 「や、やっぱり! わたしは標的にされているのね。わたしは疑われている!? そうよ、そうよ、わたしは狙われているんだわ!!」


フトシ 「疑われているとか狙われているとか、いったい誰にだよ? ここに来る前に何かしたのか?」


れもん 「騙されないわよ! この、政府の飼い犬が!」


フトシ 「お、おい。その言い方はないだろ。びっくりするぜ。確かに省庁で働いてはいるけどよ」


れもん 「なんてことなの! 政府の飼い犬に、自白剤を持つ自称エンジニアの女。持っているのは自白剤だけでななさそうね。 (すぐるの方を向いて) あなたは何者なの!?」


すぐる 「俺は大学で英語を教えている。所属しているのは工学部だけど、教えているのは英語だ。名前は、すぐる」


れもん 「工学部なのに英語? 矛盾があるわね。騙されないわよ!」


すぐる 「今の時代、英語は必須だ。特に若い人たちにとっては。だから俺は工学に関する専門的な英語を教えている。それのどこが矛盾?」


れもん 「もっともらしい言い訳を考えついたわね。いや、最初から考えていたのかしら。じゃあ、役職は何? 教授かしら? でもまあ年齢的に教授はありえないわね…… だからって、まさか助教授とか言わないわよね?」


すぐる 「言わないよ。と言うか助教授という言葉は廃止されたから、それを言うなら准教授だ。でも俺は講師だよ。それくらいでいいか?」


れもん 「ふん。これではっきりしたわね」


フトシ 「何が?」


れもん 「政府機関。医療関連。そして、大学」


フトシ 「へ?」


れもん 「何の研究なの?」


アイリ 「は?」


れもん 「何の研究をしているのって聞いているの! わたしをここに閉じ込めて何をするつもりなの? 人体実験!? わたしはモルモットになんかならないわ!」


すぐる 「あのね、れもんさん。そういうのって被害妄想って言うんじゃないかな。誰も君を傷つけたりはしないよ」


れもん 「嘘をつかないで!」


すぐる 「嘘なんてついてないよ」


れもん 「じゃあ、あれは何!? あそこに転がっているのは何!?」


一同 「……」


れもん 「人でしょ? 人よね!?」


一同 「……」


れもん 「殺されているみたいだけど」


   一同、無言で部屋のコーナーに横たわる死体を見つめる。



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